墓じまいの費用は誰が払う?決まりはない“正しい分担”|相場・民法897条・揉めない合意の作り方
親の墓じまいを考え始めたとき、多くの人が最初に直面するのが「費用は誰が払うのか?」という問題です。結論から言えば、墓じまいの費用を誰が払うかについて明確な法律上の決まりはありません。しかし、実務上の慣行や、祭祀承継者との関係、家族の合意形成によって支払い方法は決まっていきます。
この記事では、費用負担の原則や相場、民法897条の位置づけ、話し合いで揉めないための進め方をわかりやすく解説します。また、支払いが難しい場合の代替案や、家族で合意を取るためのテンプレート、見積取得のチェックリストなど、実務で使える情報もご紹介します。
決まりはない。ただし原則と実務慣行はある
墓じまいの費用を誰が払うかについて、法律上の明確な決まりは存在しません。実際、民法897条では「祖先の祭祀に関する権利」は、慣習や指定、家庭裁判所の判断により承継されるとされており、費用の負担者については明記されていません。
ただし、実務では一般的に「祭祀承継者(家の仏壇や墓を守る人)」が中心となって対応することが多く、その流れで費用もその人が負担するケースが多数派です。しかし、相続人間の合意で費用を分担することも可能ですし、実際に兄弟で折半・按分して支払う事例も少なくありません。
さらに、合意形成が難航する場合には、家庭裁判所に申し立てて祭祀承継者を定めてもらうこともできます。このように、制度としての「決まり」はなくても、実務と合意が費用負担を決定するカギとなっています。
相場と内訳:どこで金額が増減するのか
墓じまいにかかる費用は、立地や墓石の規模、手続きの難易度によって大きく変動します。おおよその相場は35万円〜150万円程度です。
項目 | 費用目安 | 説明 |
---|---|---|
墓石撤去費 | 30〜50万円 | 墓石の大きさや重機の使用可否で変動 |
行政手続費 | 数百円〜1,000円前後 | 改葬許可申請や戸籍書類の取得など |
新納骨先の費用 | 30〜100万円 | 合同墓、樹木葬、納骨堂などで大きく異なる |
これらに加え、閉眼供養(お坊さんのお経)や遺骨の輸送費が加算されることもあります。さらに、墓地の立地によってはクレーンや搬出作業の難易度が上がり、費用が高騰するケースもあります。
見積もりを依頼する際には、「どの項目にいくらかかるのか」を明確にしたうえで、複数社から比較するのが望ましいでしょう。
ケース別:誰がどれだけ払う?意思決定フロー
このセクションでは、具体的な状況に応じて費用負担の決め方を整理します。以下のようなケースに分けて考えるのが効果的です。
生前指定がある場合
故人が生前に「誰が墓を継ぐか」や「費用は自分の遺産から出してほしい」など、明確な意思を示していた場合は、その内容を尊重するのが原則です。遺言書があればその指示に従いましょう。
承継者が明確な場合(長男・一人っ子など)
承継者が明確で、なおかつ相続において多くの財産を受け取っている場合は、「取得した財産の一部から費用を出す」という形で納得が得られやすいです。いわば相続財産按分型の費用負担です。
承継者不在・複数相続人の場合
誰も墓を継ぎたくない、または兄弟姉妹など複数の相続人がいる場合は、「均等負担」または「財産分割比率に応じた按分」など、合意次第で柔軟に決められます。口頭ではなく、後述の「合意書」を活用することが推奨されます。
話し合いが決裂した場合
話し合いがまとまらず、費用の負担者が決まらない場合は、家庭裁判所に申立てを行い、祭祀承継者を決定してもらうことが可能です。これにより、承継者が法的に決まり、費用負担の整理がしやすくなります。
払えないときの選択肢
墓じまいの費用が高額で支払いが難しい場合、いくつかの方法で費用を抑えることができます。
- 合同墓や合葬墓を選ぶ:個別の墓を建てる必要がなく、数万円程度の費用で済むケースもあります。
- 都立霊園の施設変更制度を活用:遺骨を改葬せずに管理費不要の合葬式墓所に移す方法もあります。
- 費用を親族で分割する:兄弟姉妹などで負担を分け合えば、一人あたりの負担を軽減できます。
このように、費用の問題があっても選択肢はあるため、早めに相談・検討することが大切です。
合意を“書面化”する:無料テンプレ
費用の分担について家族間で合意できたら、その内容を「合意書」として書面化することをおすすめします。合意書には以下のような内容を記載しましょう。
- 費用を支払う人数と氏名
- 各人の負担割合(例:長男50%、次男30%、三男20%)
- 支払い期日と方法
- 担当者(連絡や業者対応を担う人)
- 見積条件(墓地名・面積・骨壺数など)
この合意書は、後々のトラブル防止や相続トラブル時の証拠にもなります。
見積りチェックリスト
墓じまいの見積もりを正確に比較するためには、以下のような情報を整理しておくと便利です。
- 墓地の場所と名称
- 区画面積と墓石の形状
- 墓地内の搬出経路の広さ(重機使用可否)
- 骨壺の数
- 閉眼供養の希望有無
- 新しい納骨先の種類と所在地
これらの条件を整理し、複数の石材店に同一条件で見積を依頼でき、比較がしやすくなります。
失敗回避Q&A(FAQ)
Q1. 長男が払う決まりですか?
A1. 決まりはありません。実務的には長男が承継者となることが多いですが、法律上の義務はありません。
Q2. 祭祀承継者が全額払うべき?
A2. 原則ではありません。実務上は中心となることが多いですが、家族で合意して分担可能です。
Q3. 相場に幅があるのはなぜ?
A3. 条件により費用が大きく変動するためです。墓地の場所、墓石の大きさ、搬出経路などが影響します。
Q4. 話し合いがまとまらない場合は?
A4. 家庭裁判所で承継者を決めてもらうことができます。その後、費用分担も整理されやすくなります。
Q5. 低コストの選択肢は?
A5. 合葬墓や施設変更など、数万円で済む方法もあります。都立霊園では管理費不要の選択肢も。
まとめ
墓じまいの費用を誰が払うかに明確な法的決まりはありませんが、実務上は祭祀承継者が中心となることが多く、相続人間の合意により分担することも可能です。費用は相場で35万〜150万円程度ですが、条件により大きく変動します。
話し合いの際には、誰がどれだけ払うかを明文化し、トラブルを未然に防ぐことが大切です。この記事で紹介したテンプレートやチェックリストを活用し、納得感のある進め方を検討してみてください。